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森本は、まとめ上げられた両手を振りほどく。
不安を隠し切れない彼女は、それを悟られまいと怒りの表情を貼り付けている。
そっと髪を撫でると、また顔を背ける。
懸命に強がる森本が可愛くて、その横顔を見つめる。
「職場、なんでしょ?」
「そうだよ。ただ、ここならモニター見てるのは警備員位だからね。それにこんなに暗いなら面は割れない。
心配してくれて、ありがとう。」
森本の嫌味をさらりとかわすと、彼女はますます膨れっ面で正面から俺を睨みつけた。
この静かな箱は、宝石を散りばめた夜景の中へ、不貞腐れた森本を乗せて、舞い戻っていく。
俺に残された時間は少ない。
森本の顎に手を掛けると、怯えた目をする。
少し首を傾げて、顔を近付けると、彼女の身体に一気に力が入った。
「嫌なら平手打ちでも何でもすればいい。
……でないと、止めないから。」
すかさず森本が右手を大きく振り上げた。
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