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外は昼間に比べ、幾分過ごしやすくなっていた。
時折、風が吹いて街路樹をザワザワと揺らす。
浴衣姿の女が、展望台前の広場で楽しげに話し込んでいる。
「私も浴衣着たかったなぁ。」
「俺も浴衣姿見たかったなぁ。」
森本がボソッと呟いた一言におどけて返すと、ふっと吹き出す。
「浴衣姿見て、何か楽しいの?」
「んー?普段と違う姿にそそられる。」
「またそんなこと言う……。」
「はだけた胸元とか、裾から覗く生足―――。」
最後まで言い切る前に、また二の腕を殴られた。
「……突っ込んで聞くから、正直に答えただけだ。」
「……。」
「……これで、機会は潰えたな。」
つまらない冗談を言ったが、森本の浴衣姿を見たいのは本心だ。
欲を言えば、そんな彼女を連れて歩きたい。
……今、この時間のように。
黙り込んだ森本が足を止める。
依然、森本と繋がれたままの手が引っ張られ、その反動で振り返った。
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