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「……また、行こう。
花火でも、祭りでもいいよ。約束。」
「でも、これからお稽古も忙しくなるし、来年になっちゃいそうだね。」
「そんなもん、サボる。」
「ふふっ。怒られるよ。」
「怒られてもいい。俺にとっては、亜矢の浴衣姿の方が大事だから。」
「もうっ。」
抱き締めた力に反して、おどけた会話を続ける。
おどけてでもいないと、幸せな花火の余韻を壊すだけの無粋な質問が溢れ出しそうだ。
せっかくの森本の笑顔を崩したくない一心で自分の気持ちを押し殺す。
だが、押し殺せば押し殺す程、俺の中で何かが軋んだ音を立てていた。
森本に話し掛ける自分の声が震えているのが分かった。
隠しているはずの感情の高ぶりが、身体にまで影響を与える。
今の俺は、とてつもなく情けない顔をしているだろう。
不意に、腕の中の彼女が身じろぐ。
「……頼むから、もう少しこのままでいて。」
この酷い顔を見られたくなくて、更に力を込めて森本を抱き締めながら懇願する。
彼女は、俺の異変に感づいているようだった。
うん、と労るような小さくて優しい声が胸元で響く。
そして彼女は、深く息を吐くと、俺にしがみつくように、背中に腕を回した―――。
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