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「……お、お待たせしました。」
稽古着に着替え終わった森本が、そっと中から扉を開ける。
「どーも。」
俺は鍵を手に、部屋の中へと入り、部屋の隅に鞄を置く。
不可抗力とは言え、一応謝っておくか。
「さっきは済まない。悪気はなかった。」
森本は、真っ赤な顔をして俯き、消え入りそうな声を出した。
「あの、私も、内側から鍵を掛けたつもりだったんだけど……。」
「あぁ、鍵は掛かってた。」
「へっ?!」
俺は、握っていた鍵を森本の前にぶら下げて見せる。
「下駄箱に置きっぱなし。」
俺達は、同時に吹き出した。
「森本さんって、天然だよね。」
「ち、違います!佐伯さんが、たまたま……。」
「虎太朗、でいいよ。皆、そう呼んでるし。」
森本は、呼び捨てなんて…と、戸惑っていたが、少し照れた表情で、俺の目を真っ直ぐ見つめた。
「じゃあ、……虎太朗、君。」
……何だ?この感覚。
初めて、下の名前を呼ばれたからか。
それとも、真っ直ぐに俺を見つめる照れた表情からか。
顔が一気に熱を帯びていく。
それを悟られまいと、咄嗟に口元に手を当てた。
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