12人が本棚に入れています
本棚に追加
――そう。
そうして帰路へと進む――筈だったのに。
「そんな鬱そうな顔をするな二年生。辛気臭いったりゃありゃしないよ」
はははっ、と大きな声が耳に届き、体に響いた。とても軽快で明るい声。うわあ、人生の中でこんなに陽気な人と出会うなんて思わなかった。僕の暗さが浮き彫りになる感じだ。
「…………あの」
いや、そんな事はどうでもいい。今触れるべきは、僕の置かれているこの状況。
絶賛、俵担ぎ中なのである。
と言うのも、これは僕が俵担ぎをしているなんて意味ではなく、されていると言う意味。しかも相手は女子。顔も名も知らない、兎に角、僕より背の高い女子に、だ。
推定百七十二センチ。でかい。髪型はポニーテール、目はきりりと真っ直ぐで、濁りが全くない。顔は中性的、まるで少年の様な顔立ちだ。そして服装は何故かセーラー服でなく、七夕学園のジャージを着ている。上は長袖、下はハーフパンツ。
僕とは面識が一切ないと思うのだが。
「下ろして下さいませんか」
「駄目だね。下ろしたら君、全力で逃げるだろ?」
御尤もで。
元から諦めていたが、益々逃げる気は無くなった。万が一億が一、彼女の腕の中かから抜け出せたとしても、走って逃げ切れる事は出来ないだろう。足の筋肉の付き方がアスリート級だ。決して太くはない、しかし、筋肉はしっかりとついている。無駄な肉がない、と言うのが正しいか。
はああ、男として、負けた気分。
『もやしっ子』と日々呼ばれる(とは言っても、呼ぶのは不吊先生くらいだ)僕からしたら、羨ましい限りだ。
「そう言えば、まだ名乗ってなかったな」
「え……あ、はあ。そうですね」
どんなタイミングだよ。急に他人を俵担ぎしといて今更自己紹介って。
常識あるのか? この人。
最初のコメントを投稿しよう!