序章 とある先公との堕落論

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 友達は何人いる?  と、聞かれたら、ぼくは『この世にある本の数だけ』と答える。  本はいい。  喋らなければ、罵りもしない。ぼくは傍観者でいられて、被害者や加害者になる可能性などこれっぽっちもない。こちらから語らなくとも、一人で語ってくれる。本の多さに比例して、話題も多い。ジャンルも豊富。  何より、誰にでも平等に、知識と夢と空想と緊張と感動を与えてくれる。  あくまでも、平等に。  こんなぼくにでも。  だから、本は友達なのだ。  ぼくにとって、かけがえのない存在だ。 「……友達、ねえ」  僕は鈴蘭の押し花の栞を挟み、本を閉じた。大きさは文庫本より少し大きい、厚さはそこそこ。読み応えはある。文字数多いし、内容も共感出来る所が多々存在。  いや、『本が友達』と言う所は、共感出来ないが。  かけがえのない存在、は認めよう。  僕が言う所のその意味は、“暇潰しをする為”の存在って事だ。決して、友達としてではない。  本は語る。比喩として、それは分かる。だが、本は語るだけだ。こちらがどんなに話しかけても、話しかけたくても、聞く耳持たず。  そんなの、友達じゃない。  本は物、物体。この主人公は、それを割り切れずに、現実逃避していまっているのだ。  少年よ、現実を抱け。  友達、と認められるのはペットまで。
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