序章 とある先公との堕落論

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「……前者ですね」 「理由」  その“りゆう”と言う三文字が、彼女の口から紡がれる。抑揚が無く、アクセントも無い。本当に、只の単語として先生は発音した。  せめて、クエスチョンマークをつけて下さい。と言いたくなる。  だが、言う事なく、と言うか、言う気もなく、僕は普通に質問に対して答えた。 「例え悪書でも、学ぶ事はあると思うんです。悪を知って善を知る様に、悪書を知って良書を知る――と言えるんじゃないですか? まあ取捨選択するのに、反対って訳では無いんですけども……悪書を読んだ上でしか良書の“価値”は分からない。僕はそう思いました」 「悪書を読んで、本の良し悪しとか、優劣とか、最高最悪とか――つまりは“価値”を付けられる――成る程な、そう言う考え方もあるか」  “価値”、ねえ。  そう言われりゃ――“価値”ってモンは一体、何だろうな。  彼女は呟く。  僕は答えなかった。  その答えは、僕も不吊先生も分かりきった事だし、独り言にまで僕が答える義理なんてない――は、ちょっと言葉が悪いか。答える必要が無い、と言うのが最善で最良、最も当てはまる言い方だ。 「――先生はどうなんですか?」 「何が」 「“全ての本を読んで良書悪書を判断する”か“本を読む前に良書悪書を取捨選択してから読む”か、ですよ」 「あー……」  と言って。 「どうでもいい」  と続いた。 「……さいですか」  僕は、そう言う他無かった。  なんと言うか、ねえ?  人に聞いといて、そりゃ無いでしょ。とでも言いたくなる態度。自分がした質問は自分では考えない。それが不吊涼スタイルアンドクオリティだ。  本当に適当、この人は。
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