序章 とある先公との堕落論

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「言い訳ねえ……」  ふんっ、と不吊先生は鼻で笑う。  多分、それは僕への蔑みでなく、自分への蔑み。 「――その解答は九十九点」  相当な正解率をお持ちのようだなぁ、流石だよ、芥。  皮肉めいて、そう言った。 「残りの一点は?」 「お前勝手な好みを、この私に押しつけるな――って言う、私の思いの表れだ」 「ああ、成る程。どうもありがとうございます」  僕はお礼を素直に言った。汚点を示してくれた人にはちゃんと礼をする。数有る母さんの教訓の内の一つだ。  礼を言われるような事は、なんもやってないけどな。不吊先生は苦笑した。 「只、逃げたい。そう、そうなんだよ、そうなんだよなぁ、私は。結局、誰にも関わって欲しくなくて、干渉して欲しくなくて、批評して欲しくなくて、同情して欲しくない。全く――」  遠くどこかを見つめ、本を脇に置き机に突っ伏してため息を一つ吐く。何だか寂しそうで孤独だった。  本当に、この人は“昔から”――独りぼっちだ。  人間関係を作る事に怠惰で、どんな時も独りになりたくなる癖に、やっぱり、誰かが側に居ないと寂しくなって、独りになんてなりたくなくて。  矛盾の存在。  母さんは、彼女――不吊涼の事をそう評した。 「――芥、すまん、ギブアップだ」  不吊先生は机に突っ伏したまま、両手を挙げる。 「もう、これ以上、喋れん」
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