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其処は見慣れない一室の中だった。
彼は身体を起こす。
漆黒の髪は艶やかで彼が動く度にさらさらと滑らかに動く。
髪の合間から覗く瞳も髪と同じ漆黒の色をしていた。
気だるげに彼は顔を片手で覆う。
薄い桜色の唇にすっと通った鼻梁。
見る者の目を奪う整った美貌。
長い足をベッドから下ろし、辺りを見渡した。
黒い服は質素で左胸に縦で止めてあるだけだ。
下衣も黒く、彼の痩躯な身体つきが更に際立つ。
「―――目が覚めたのか?」
抑揚のない声に彼は顔を上げた。
彼の前に居たのは彼とは対照的に白い衣服に身を包んでいた。
長い白い髪を一つに結い、空色の瞳は静かに自分を見つめていた。
すっと通った鼻梁、桜色の唇。
精悍な美貌の青年だ。
黒髪の青年は抑揚のない声色で相手を呼んだ。
「―――〈創主〉。」
「お前にそう呼ばれるのは此処で〈生まれた〉頃以来か。―――〈黒冬〉。」
僅かに表情を和らげる彼に対して、黒冬は無表情に彼を見つめていた。
これはこれからの〈始まりの時〉より少し前の御話。
彼が目覚めるまでの物語。
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