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「いえ、何もお役に立てず申し訳ありませんでした。……では、お疲れ様です」
一秒でも早く主任の前から立ち去りたくて、上司相手に失礼だとは思いながらも、俯いたまま踵を返した。
「え?部屋に戻らないのか?」
主任の疑問は尤もだ。
私は今まさに、宿泊先のホテルから出て行こうとしているのだから。
もちろん部屋には戻るが、今このまま戻れば泊まる部屋のある14階まで、主任とエレベーターに乗らなくてはならない。
今の私にとって、それは地獄以外の何物でもなかった。
昨日の今日で平気でいられる心臓は、残念ながら持ち合わせてはいない。
「ちょっと買うものがあるので、表の薬局に行って来ます。主任は先に戻られて下さい」
そう言い残すと、何か言いかけた主任の言葉は待たず、ホテルのロビーから外へと出て行った。
仕方がない。
忘れてくれってハッキリ言われたんだもん。
昨日の事は、無かった事にするしかないんだ……。
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