セカンドバージン

4/20
前へ
/209ページ
次へ
「いえ、何もお役に立てず申し訳ありませんでした。……では、お疲れ様です」 一秒でも早く主任の前から立ち去りたくて、上司相手に失礼だとは思いながらも、俯いたまま踵を返した。 「え?部屋に戻らないのか?」 主任の疑問は尤もだ。 私は今まさに、宿泊先のホテルから出て行こうとしているのだから。 もちろん部屋には戻るが、今このまま戻れば泊まる部屋のある14階まで、主任とエレベーターに乗らなくてはならない。 今の私にとって、それは地獄以外の何物でもなかった。 昨日の今日で平気でいられる心臓は、残念ながら持ち合わせてはいない。 「ちょっと買うものがあるので、表の薬局に行って来ます。主任は先に戻られて下さい」 そう言い残すと、何か言いかけた主任の言葉は待たず、ホテルのロビーから外へと出て行った。 仕方がない。 忘れてくれってハッキリ言われたんだもん。 昨日の事は、無かった事にするしかないんだ……。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1151人が本棚に入れています
本棚に追加