零幕・蜘蛛の糸

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 むかし、むかし、大むかし、愚かしくも極楽浄土を目指し蜘蛛の糸を登った己(おれ)は他人から見ると滑稽なのだろう。  この針山に覆い被さっているように倒れている血達磨の連中の中には、どさくさに紛れて天国へ行こうとした奴もいる。  いい気味だ、最期の希望も断ち切られて絶望しきった罪人を見るのは滑稽極まりなく、地獄の責め苦すら快感のように思えてくるのだ。  己の周囲は死にかけた蛆虫共が累々と地面に伏している。  責め苦を受けることしか脳のない豚共め、忌々しい。  心中で吐き捨てながら罪人の胴体を踏み台にした。  地獄にいることは馴れたものの針山を踏んでいる時は叫喚するほどの激痛がはしる。  痛みに耐えかねて倒れようものなら、全身に針の洗礼が待ち受けているのだ。  おとなしく寝ることもままならぬ。
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