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母さんが受話器をあげ、静かに話し出す。
庭から縁側にあがり、
ふと、匂いの変化に気付く。
いつしか線香の香りは、
夕飯の鯖の煮つけに。
その匂いを感じながら、
息を殺して、
999枚の写真をめくる。
アナログの時計が、
やけに大きく時間を刻む。
カチカチと、物寂しい音が響く。
いつしか、母さんは受話器を置き、
僕の前に座っていた。
静かに優しく、
悲しく微笑んで、
999日ぶりに、
僕の名前を呼び、こう言った。
『お父さん、
ちゃんと見つけてもらえたよ。
ちゃんと、見つけてもらえた。』
冷たい雨が一粒、
頬にぶつかって流れた。
『……そっか。そっか。』
何度も何度も、雨粒は頬を伝う。
母さんはずっと、静かに微笑んでいた。
そう、そうなんだ。
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