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あの写真、 あの、僕が撮った初めての写真、 あの写真は、 父さんのカメラで撮った、 父さんの写真は、 もう、二度と、 ――撮れない写真だったんだ。 頬を拭い、 静かに膝のうえのカメラを下ろす。 部屋の引き出しからマッチを出して、 静かに庭におりた。 999枚の、 父さんのいない、写真と共に。 母さんは何も言わなかった。 みんな、わかってくれていた。 冷たく月のひかる空に、 煙が立ちのぼる。 灰になった、写真を連れだって。 ――父さん、見えていますか。 ――あれからもうすぐ1000日。 ――明日は、二十歳の誕生日です。 ――何もいりません。でも、 でも、 「――もう一度、会いたかったです。」
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