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「やぁ、やぁ、初めまして。」 「……。」 目の前のおどけた様に笑う目の前の男に対して、沈黙を貫いた。沈黙する、それ以外の選択肢を持ち合わせていなかった、と言う方が正しいのかもしれない。 反応しない僕に対して、大して気分を害した風も無く、そして、ちょっぴり困った風に、首を傾いだ。 「あぁ、そうか。君は声が出せないのだったっけ。これは失礼。失念していたよ。」 白い洋服。やけにだぼついた袖をパタパタと振り、やれやれと言わんばかりに、薄く溜め息を吐き出した。 「…………。」 さて、一体全体、この男は何者で、この空間は何処なのか。 僕はあの時、殺された、筈なのだけれど。 やけに気味の悪い空間だと、今更ながらに思う。この空間は色彩を正しく認識出来なかった。視覚的な異常と言うよりは、もっと別なものの様に、思う。 正直な話、こんな光景は実に非現実的であって、自身の正気を確信するには、些か心許ない。 白とも、黒とも、はたまた赤に見えたり、青に見えたり、兎も角気分の悪くなりそうな、色彩の中、目の前の男だけは色を変化させずに其処に在った。 背中にまで長く垂れる白い柔らかそうな髪に、紅い紅い宝玉の様な、瞳。 整った容姿と相俟って、益々人とは遠く離れた存在を思わせた。 紅い瞳はゆるりと細められ、此方を眺めている。 其処には疑い様のない慈愛が浮かんでいて、酷く戸惑った。 こんな視線を受けたことは、未だかつて無い事だった。 けれど、気付けば。 そうっと、その人の髪に触れていた。
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