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あの後、急いで戻ってきたらしい受付嬢によって、重厚な木製の扉の前まで案内され、その大きな扉を仰ぎ見た。
「無駄にデカい……。」
隣で手を引いてくれていたネイトが心底うんざりした様子で呟く。涼しげな目が不機嫌に細められる。
確かに不必要な程の高さと厚さである。材質は滑らかで暖かな茶色。余計な装飾は一切無いが、一目見て上質なものだと解る。
「……。」
それよりも、と視線を動かす。右隣に立つネイトとは反対側の左側には、案内をしてくれた受付嬢の姿がある。案内が終わったのだから、戻ればいいのに、と思うものの、マスターの許に訪れた来客である僕達に―――いやネイトに興味があるらしい。
それは怖いもの見たさという事もあるのだろうが、何分ネイトは見目麗しい青年でもある。
ちらちらとネイトを見る目は、完全に媚びを売る時のそれ、を物語っている。目は口程にものを言う、とは言うが、まさか此処でその体現を見せられるとは思いもしなかった。
新発見を見付けれたのは幸いだが、此処に長く居るのは好ましくない。彼女が放つきつい香水の臭いも、ネイトに送る視線も―――――気持ちが悪い。
そんな思いで、くい、とネイトの服の袖を引くと、ネイトが柔らかく微笑み、何ですか? と見下ろしてくる。
はやく入ろう、と唇を動かすと、じっ、と此方の唇の動きを読んでいたネイトは頷き、金色のドアノブに触れて、開いた。
「やぁ、良く来たね、ネイト。」
「ええ、お久しぶりです。」
にっこりと笑って出迎えたのは、礼服の様な衣装に身を包んだ女性。ハスキーな声に、中性的な面立ち。大きくその存在を主張する胸がなければ、男性と勘違いを起こしても仕方がないだろう。
反射的にネイトの背後に隠れたまま、彼女を眺める。
艶の有る黒髪に金緑色の瞳。素直に美しい、と形容できるその姿。
じっとフードの陰から、見つめていると、ぱっちりと目があった。
「―――――ネイト。お前、何時の間に、子をつくったんだい?」
金緑の瞳を大きく見開き、信じられない、と呟く。
「作ってませんよ。拾ったんです。」
「……誘拐でもしたのかい?」
益々信じられないと呟き、そう言う。噛み合わない会話にネイトは頭を抱える。
そんな会話に笑みが零れると同時に、ネイトのこの信用の低さは何なのだろう。メルヴィル然り、彼女然りいえる事だが。
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