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「話せない?」
「あぁ、言っていませんでしたか?」
驚きを滲ませて、声を上げるアルヴァイアとは反対に、それは済まない事をしました。と、それ程悪いとも思ってはいないらしい声音で、ネイトは返す。
ネイトがシキを迎えに来た時に、アルヴァイアが、喋ってくれない、と零した時、返ってきた言葉がそれだった。
「それは、先天的な物かい?」
「恐らくは。」
ネイトはシキが生まれた時から傍にいる訳ではない。
二年程前に出会った時は、もう既に言葉を発する事が出来なかった。
シキ本人は、声の出し方から知らない様なので、そう判断したが、その判断は間違いではないだろう。
そんな考えを巡らせながら、ネイトは腕の中の温もりに目を落とす。フードを目深に被り、ネイトの好む、蜜色の瞳は見えない。やはり他人の前だと常に気を張っているらしい。
此方に身体を預け、安心した様に、身体の力を抜いている。
人嫌い、というものがこんな風に顕著に表れるのも珍しい、と考えながら、ふと、この子は自分が居なくなったら、どうするつもりだろう、という縁起でもない可能性が、脳裏を掠めた。
手放す気など、毛頭無いが、でも―――――
こんな不規則な生活だ。何が有っても可笑しくはない。
そう考えると、シキを抱く手に、力が籠もった。
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