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「やぁ、おはよう。」 ぺこりと頭を下げる幼子の目線に合わせてしゃがみ込み、笑いかける。 来客用のソファに座らせて、好きな本を読ませる。 ここ最近の、何時ものサイクルだ、とアルヴァイアはその一連の動作を眺めながら、頭の隅で思考を巡らせ、机の上に重ねられた書類に目を移す。 今日は速く仕事が終わりそうだから、シキとコミュニケーションをとってみよう、と一つの提案を思い浮かべながら、席に着いた。 ―――――穏やかな昼下がりを、期待しながら。 「マスター!」 順調に書類を書き進めていると、突然、扉を蹴り飛ばす勢いで走り込んで来たギルドの受付嬢に、アルヴァイアは驚き、動きを止めた。書類に滑らせていたペンがぐにゃりと意味を成さない線を残す。受付嬢の持っていた紙束がばさばさと床に落下して、一瞬視界が白に染まった。 「どうしたんだい、騒々しいね。」 落ち着いておいで、とアルヴァイアは席を立つと、荒く息を吐き出す受付嬢の背を撫でながら、再度、どうしたんだ、と問い掛けた。 「リーゼが、【六大貴族】の一角に楯突き、幽閉されました!」 どうしましょう、と騒ぐ受付嬢の言葉に、アルヴァイアは面倒そうに目を細めた。 六大貴族、とは、王から直接的に土地と地位を賜った貴族で、王の次に権力を持つ者でもある。彼らはそれぞれこの世界に存在する代表的な六属性の一つを得意とし、秀でている。故に国の有事の際には、国や民を護る為に彼らが動く。……という名文が有るのだが、この国は治安は悪いが、比較的に王都が近い所為もあって、戦争などは起こらない。故に彼が動く機会も少ない。 そんな悪循環が積み重なった結果、権力ばかりを振りかざして、本来の【貴族】としての名文すら忘れ、民を虐げ、私腹を肥やす、性根の腐った連中に成り下がってしまった、【貴族】の成れの果てなのだ。
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