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耳を劈く騒音に何事かと見開いた視界に一台のバイクが飛び込んできた。
勢いを殺すことなく、バイクは鵺の横っ腹へと激突。
体当たりを受けた鵺は、その衝撃を受けてバイクが走ってきた方向とは逆側にゴロゴロと転がっていく。
運転手を失ったバイクは、反動で鵺と距離を取るかのようにアスファルトの上を横滑りしていった。
で、その運転手はと言えば。
いったいどうやったのか、空に燦然と輝くお日様をバックに高々と跳躍していた。
その落下地点にいるのは、体勢を崩した鵺だ。
運転手は鵺が体勢を立て直すよりも早く、必要最小限の動きで引いた左拳を落下地点に向かって叩き付けた。
断末魔の咆哮、轟音。
舞い上がった土煙が晴れ、視界がクリアになった頃には、鵺が居たはずの場所に立派なクレーターがこさえられていた。
この間僅か十秒ほどの出来事。
驚いている間に終わってしまった感じだ。
え、何?俺、助かったの?
「っと・・・・」
唖然として空気を求める金魚のように口をパクパクさせる俺を尻目に、クレーターから這い出してきた運転手―――真夏のクソ暑い日中だと言うのに黒いローブで全身をすっぽりと覆った銀の仮面の男は、包帯でグルグル巻きにされた左腕を具合を確かめるようにして二、三度ぷらぷらと振り、仮面の奥の瞳を真っ直ぐにこちらへと向ける。
次の得物はお前だ、とでも言いたいのだろうか。
助かったと思ったらこれだよ。
あの化け物を一撃で屠るような奴を相手にどうしろと言うのか。
これならまだ鵺の方がマシだった。
「―――なぁ、少年」
ガクブルする俺を品定めするかのような視線(仮面に隠れていてはっきりとは見えないが多分そんな感じ)でしばらく観察した後、仮面の男はそう言って―――
「何か食べる物、持ってない?」
特大の腹の虫を響かせた。
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