[四頭目]琥珀と蝶と恋の夜

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【琥珀と蝶と恋の夜】 兎のパエリヤはお口に合いませんか。食が進まないご様子ですが。 くせのある兎肉が好みでないなら……違う? 失礼しました。 ははあ、晩餐会は退屈ですか。胸をふさぐ悩みもお持ちのようですな。 では、一足先にデザートでも。もっとくつろげる暖炉側のテーブルへどうぞ。 あなた様は大切な客人ですから。商談に夢中の旦那様に代わり、私めが話相手を。 ーーお待たせしました、林檎のタルトと紅茶でございます。 ふむ、お若い方の悩みは十中八、九が恋の病と相場が決まっておりますが。 図星ですね、はは。相談も秘密を守るのも無料です、ご安心下さいませ。 ある国では、恋のトキメキを『お腹の中に蝶がいる』と表現するそうでして。 蝶を捕えた経験はございますか。 両手に閉じ込めた蝶の羽がサワサワと手の内を撫でる。あれは何とも嬉しく、くすぐったい感覚でございます。 恋に落ちると、身体の内部を飛び回り胸やお腹をくすぐる蝶を飼うわけですな。なかなか詩的な表現です。
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