[五頭目]人形

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やがて腹話術師は、人形との会話を唐突に切り上げて巨大なカバンを開き、片付けの準備を始めました。 地味な見世物のせいか、あまり人がいませんでしたからね。場所を変えようとでも思い立ったのか。 看板を畳もうとして手間取る男。人形だけが椅子にポツンと座っております。 灯りに魅かれて集まった虫に、私めは何箇所も食われておりました。 手足をぽりぽり掻いていますと。人形が身じろぎしたように思いました。 ……人形のほっぺたがね、赤く腫れているのです。虫に刺されて。 近づいて凝視する私めを人形もギロリと見返して 『さっさと行け』 声こそ出しませんでしたが、確かにそんなセリフを形作る口元。
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