それぞれの日常──幻夜『退学後』

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「おはようございます」 俺は営業課のオフィスに入り挨拶をする。 「おはよー」 パソコンに向かって何やら打ち込んでいる男性が挨拶を返す。 今日は8時半前に出社したのでまだ社員はあんまりきていない。 「仁さんだけですか……」 「なんだなんだ、僕がいちゃダメなのか?」 「いえ、めんどくさいと思っただけです」 「あ、その言葉良く娘に言われるよ……」 仁さんははぁ、と溜め息をつくと再びパソコンに向き直った。 この人は須田 仁【スダ ジン】さん。 俺の上司でありここの営業部長だ。 髪型は少し長めの黒髪で、目付きはなかなか鋭く、大人の男性って感じだ。 ただ中年のオッサンとは違い、瞳は若々しさが漂っている。 ついでに俺が営業の仕事をするときはこの人と一緒に行動することとなっているのだ。 「今日は早めに帰宅したいんでさっさと営業終わらせましょうか」 「おっ、新婚さんは夜の営みに忙しいのかな?」 「違います、義妹たちが遊びに来るんです」 「ははは、分かってるよ。 僕も今日は娘と夕食を食べたい気分だ。 あ、陸くんと一緒に外食もいいなぁ」 俺は仁さんが何か言っているのを聞き流し、自分の机にカバンを置き、パソコンの電源を入れる。 今日の訪問先を調べるためだ。 営業課での俺の仕事は、神山財閥が経営する会社の製品を売ることや、他の会社から製品を購入すること。 その他に研究所などを訪れて新製品の製作依頼をするなど、なかなか面倒な仕事だ。 「今日はGMに行くみたいです」 「なるほど、その案件か。 じゃ、まずはGMに新製品の説明をしてそれの契約を取りに行こうか」 仁さんは立ち上がるとイスにかけてあったスーツを着る。 この人は仕事をするときはすごく真面目でかなり頼りになる。 「あ、その前に陸くんにメールしないと!」 ただ、普段は陸と並ぶくらいのバカなのだが…… 「そんなの後にして早く行きますよ」 俺は仁さんを置き去りにしてオフィスを出た。
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