初任務から大仕事

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[1] ここは日本のとある森。雪のまだ溶けきらぬこの場所で、慌ただしく鬼ごっこを繰り広げる者がいた。 「ど・こ・が楽勝なんだ!」 新品の灰色のローブを纏った青年が、一匹の怪物に追われながら喚いていた。逃げる彼を追いかけているのは“白の悪魔”に寄生された狼である。 狼は青年を捕らえようと牙を剥き出しにして走っていた。青年はひたすら逃げ回っている。なかなかの敏捷性だ。 だが人間が狼に脚力でかなう道理はない。見る見るうちに距離は縮まっていく。青年が餌食となるのも時間の問題だった。 「グルルル! ガウガガルルル!」 「うわ! コイツすげえ速い!」 当たり前である。何故なら走っているのは狼なのだから。 「仕方ない……」 青年はふぅー、とため息をつき任務の前に貰った小さな箱を懐から取り出した。 《葬白 闇ノ手》 小さな箱の名称だ。白の悪魔に対して効果的な武器である“葬白”は個人によって形が異なる。 青年の葬白はつい数時間前にそう名付けられた。 「頼む!」 青年はすがるような思いで箱を開けた。すると箱の中からニョキョキと無数の黒い手が出現し、狼の方へと伸びていった。 「ガウッ!?」 狼が、いや脳を支配する白の悪魔が、狼の口を借りて驚きの声を発する。みるみるうちに黒い手は狼の身体に絡みつき、そのまま拘束してしまった。
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