慈愛なき男

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ある晩、真人は母と家で会う約束を交わした 久しぶりの母との晩餐に、真人は胸を躍らせた 「どお?会社の方は」 「…順調すぎるくらいだよ。母さん…今は辛いだろうけど、俺がやがて会社を継いだら、母さんにもっと良い暮らしをさせるよ」 家を出た母の暮らしは決して裕福ではなく、逆に質素なものだった 毎日朝から晩までスーパーで勤め、漸く日々の生活を賄っていた 「…いいのよ。気にしなくて」 「…約束するから。待ってて」 「…ありがとう。真人…でももういいの」 「なんでそんなこ…と……?」 振り返った真人の目に飛び込んできたのは、ロープを手に持ち自分を見下ろす母の姿だった そのままロープは真人の首元へ掛けられ引っ張られる グンッ!! 「ガハッ!?か…かあ…さん!?」 「ごめんなさい真人…でもこうするしかないのよ…あの人の会社を潰す為には後継者の貴方を殺すのが一番でしょう??」 「…殺…!?や……めて…!」 ロープを持つ母の力はどんどん強くなってゆく 「私の血を引く貴方があの会社を継ぐなんて、許せない……!死んでちょうだい…!!」 母の目は本気だった。もう既に母は正常な判断など出来ないくらいに狂っていた 遠のきそうな意識の中、真人は必死で母の手を掴み引き剥がそうとした しかし力が強すぎて剥がれない 仕方なく真人は母を投げ飛ばした ガシャアンッ!! 「はぁ…はぁ…っ!!」 戸棚にぶつかり血を流す母を見て、真人は恐怖で身震いしながら家を飛び出した 優しかった母が、自分を殺そうとした その事実だけが彼の頭を埋め尽くした そして母はその数日後、ビルから飛び降り自殺した その時、真人の中で大事な何かが…崩れる音がした
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