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ずしゃん!
落下してきた鉄柱が、君を貫いて突き刺さった。
「え?」
水面に水打つように、悲鳴があたりを埋めつくす。
この異常な光景に場違いな、いやに涼しげな風鈴の音がかすかに聞こえた。
「っあ、……っ」
これは、夢に───。
しかし、頭のなかで陽炎がわざとらしく「夢じゃないぞ」と嗤っていた。
僕の意識が遠のく。
耳障りな嗤い声が頭のなかを埋め、だんだんと眩む視界に見えた君の横顔は、笑っているような気がした。
***
「でもまぁ夏は嫌いかな」
猫を撫でながら私はつぶやいた。
何度も何度も何度も続く、私と君のどちらかが犠牲にならないと終わらない夏の日。
今日で私は何度目の死を迎えるだろうか。
からだはよみがえり記憶だけが残る。
精神は摩耗していく。
けど、君を犠牲にはできない。
君が死んでしまったら、私は、君の代わりに死に続けた記憶を忘れる。
そして、君が私の代わりに死に急ぎ続ける夏が始まってしまう。
つまり、私が先に死ねば、君は自分が身代わりになって死のうとは思わない。
君が死なない限り、君は私が死ぬ直前まで、私の死に続ける記憶を思い出すことはない。
猫が逃げ出した。
その先には道路。
なるほど、今回はこのパターンか。
信号機が赤に変わるのも承知で、私は道路に向かって一直線に走った。
私の悲鳴が響く───。
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