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ヘッドフォンから声がして、「あと12分だよ」と告げる。
あとたった12分ですべて終わり、ということだろうか。
考えながらも、走る。
いつもならもうすでに息も絶え絶えだろうに。
これが火事場の馬鹿力というやつだろうか。
涙が出てきた。
けれど、泣かない。
泣くもんか。
悲鳴や怒号を涙目になりながら走りぬける。
本当にここは私の住んでいた街なのだろうか。
昨日までは、穏やかで暖かくて、静かなところだったのに。
人々の声は、まるで終わらない人類賛歌のように思えた。
「駆け抜けろ、もう残り1分だ」
その言葉ももう聞こえない位に。
がむしゃらに走る……!
───ひたすらに目指していた丘の向こうは、もう、すぐ目の前に。
「はあっ、はあっ、はあっ、……はあっ……はっ、」
ついにたどり着いた。
「は、……?え?ああ、あ?」
丘から街を見下ろした。
街の上空にはなにか巨大なシェルターのようなものがあった。
シェルターの中では、閉じこめられた鳥たちが行き場をなくし、ぐるぐると中を飛んでいる。
それは、私が今日ぼんやりと眺めていた、空そのものを映しだしていた。
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