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(……へっ? )
「……へっ? 」
心の声が出てしまった。
男は笑みを絶やさない。
……え、う、うん……こ?
あれ、この人今もしかして私達のことをうんこって言ったの?
いつまで経っても崩れることのない男の笑顔は眩しさすら感じる。
この男の口からそんな汚い単語が出たことが信じられないくらいだ。
笑顔を続ける男の前に、私達は言葉が出ない。
男の言った意味も分からないが、この得たいの知れない人間に対し、どう対応することが正解なのか分からないのだ。
男との間に小さな沈黙が生まれる。
テレビを一時停止させたかのように、男の表情は笑顔のまま固まっている。
部屋の外から、通路を歩いてくる足音が聞こえ、次いでもう一人部屋に人が入ってきた。
その人は、大きく目を引く白衣姿で、一見すれば医者だと思ってしまう。一瞬部屋の中を見渡すも、私達に目をくれることなく笑顔を崩さない男に話しかけた。
「巳坂(みさか)君、キミはどうしてすぐ人の言ったことを忘れてしまうのかな」
笑顔の男、巳坂は笑顔のまま入ってきた男の方に顔だけ向けた。
「あぁ、なんだ、誰かと思えば、HP(ハートポイント)ゼロ男か」
エイチ、ピー?
白衣の男だけが、巳坂さんの言葉に反応した。
「んー、あのね、それはもしかしてこの前やった格ゲーで、僕が君に開始5秒で負けたことを面白おかしく示唆したアダ名かなー」
白衣の男も、笑顔で返す。
そして男は、「そんなことより」と溜め息混じりに続けた。
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