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白衣の人はすかさず巳坂さんに詰め寄る。
「え、決めたって? 『アレ』の調達にこの子供を使うってことか? 」
そこで白衣の人が初めて私達に視線を向けた。
「いやいやいやいや、巳坂それはお前の独断じゃ無理だろ。そこはボスの判断を煽ってからじゃないと。
あと、お前の判断どーこーっていうよりこいつらの主人が黙ってないんじゃないか? ここって誰の管轄だっけ? 」
巳坂さんが「うーん」と筋の通った鼻先を上に向ける。
「たしか……、女だった」
「あぁ、それ茜ちゃんだね、たぶん。あの子かー、それは尚更ムリな気がするな」
「どうして? 」
「いや、どうしてって……。そりゃ、あの子は少し気性に問題がな」
白衣の人は苦い顔で肩をすくめる。
納得いかない様子の巳坂さんだが、白衣の人が「まずは、ボスに」と囁くとコクッと頷いた。
巳坂さんはスッと立ち上がると、出口に向かって白衣の人に続く。
白衣の人の後ろで巳坂さんだけ私達の方に振り向き、笑みを浮かべながら薄く口元を開いた。
「See you then.」
小鳥のさえずりのような囁き声で、滑らかな英語で別れの言葉を口にする。
『美』の限りを余韻として残していった、線の細い背中はそのまま白衣の人と共に部屋から出ていった。
2人が出ていってすぐ、ゴウ君が顔を寄せてきた。
「See you ……ゼンって、どういう意味だっけ? 」
私は記憶の中から、英語の授業の一部を引っ張りだす。
「ん、と。直訳すると『See you 』が、さようなら。『then』が、その時。
だから、『その時までさようなら』かな。でも文法的に、この文の前に次会う約束とかする文章が 入るはずだったはずだけど……」
『その時』……か、巳坂さんはまた私達と会う機会があることを知ってるみたいな言い方だったな
巳坂さんは目的があって、ここにやってきたみたいだった。私たちと再び会うことはその目的に関係があるんだろうか
「その時って、一体いつのことなんだろう」
「んー」
独り言を言ったつもりだけど、隣でゴウ君が首をひねった。
「まぁ、来るべき時が来たら、会うんじゃないか? 」
安心するほどゴウ君らしい。単純な答え、だけど……
「うん。私もそんな気がする」
巳坂さんの不吉で妖しい香りに、胸の内は正体不明の不安でいっぱいになる。
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