LIFE 10

5/19
前へ
/609ページ
次へ
青木に私の嘘が通用しないなんてわかってる。 だから避けるんだ。 でも、それさえ上手くいかない。 「相沢部長のことがショックで、心ここに在らずか?あの人もバカだよな。春香捨てて、あんな女に乗り換えて。遊ぶ相手は選ばないとなぁ?」 いつか聞いたセリフだと思ったら、ちょっと前に私が鬼頭君に言ったセリフだ。 こいつと同じこと言うなんて…。 「もうどうだっていいし。全部過去のこと。あんたも相沢部長も、私には関係ない。」 「俺は現在も関係中だろ。今も春香の心を埋めてやろうとしてるのに。」 息がかかるほど顔は近く、次第に首筋に顔を下ろしてくる。 「止めて、こんなところで!もう触らないで!」 全力で青木の腕から逃れ、資料室から飛び出した。 そのまま走って向かったのはオフィスではなく、化粧室。 勤務中のため誰もいない化粧室。 私は肩で息をしながら、洗面台に両手をついて俯いた。 そして思い出す。 昼に見た、相沢部長の浮気相手の姿を。 ああなってたのは、私かもしれない。 セクハラで訴えたりはしないけれど、関係がバレることはあったかもしれないから。 みんなから避けられ白い目で見られる彼女を見て、私は確かに『あれが私じゃなくて良かった』と思ったんだ。
/609ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4470人が本棚に入れています
本棚に追加