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青木に私の嘘が通用しないなんてわかってる。
だから避けるんだ。
でも、それさえ上手くいかない。
「相沢部長のことがショックで、心ここに在らずか?あの人もバカだよな。春香捨てて、あんな女に乗り換えて。遊ぶ相手は選ばないとなぁ?」
いつか聞いたセリフだと思ったら、ちょっと前に私が鬼頭君に言ったセリフだ。
こいつと同じこと言うなんて…。
「もうどうだっていいし。全部過去のこと。あんたも相沢部長も、私には関係ない。」
「俺は現在も関係中だろ。今も春香の心を埋めてやろうとしてるのに。」
息がかかるほど顔は近く、次第に首筋に顔を下ろしてくる。
「止めて、こんなところで!もう触らないで!」
全力で青木の腕から逃れ、資料室から飛び出した。
そのまま走って向かったのはオフィスではなく、化粧室。
勤務中のため誰もいない化粧室。
私は肩で息をしながら、洗面台に両手をついて俯いた。
そして思い出す。
昼に見た、相沢部長の浮気相手の姿を。
ああなってたのは、私かもしれない。
セクハラで訴えたりはしないけれど、関係がバレることはあったかもしれないから。
みんなから避けられ白い目で見られる彼女を見て、私は確かに『あれが私じゃなくて良かった』と思ったんだ。
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