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「そうなるね。僕という存在の正体は、実は喋る壁だったのさ」
――生憎だな、俺もなんだ。
と、彼が続く物だから、僕は思わず目を丸くする。
一瞬、意味を理解するに時間を要したが、しっかりとまとめた上で驚いた。
「まさか、君も壁だとは。これも、何かの縁なのだろうか」
「いや、縁じゃないな。奇跡だな。喋る奇跡を起こす壁が、鉢合わせる奇跡がここで起こったんだ」
鼻息を荒くしているのを感じる。『奇跡マニア』の彼にとって、これ以上にないくらい嬉しい流れに興奮しているようだ。
彼の止めどない言葉の群れがやってくる前に、それらしく僕はまとめる。
「結論、この空間内には、壁が三枚あっただけか」
◇◆◇
先ほどまでの妙な緊張感は何処へ。僕たちの間で、とりとめもない奇妙な壁トークがその後しばらく展開される。
「それにしてもこの壁、レンガ造りの壁だなんてな。シックでいいじゃないか」
会話が一段落ついた所で彼が唐突に言い出す。
僕は目をしばしばさせながら返した。
「え? 君、何で僕の壁の種類を知っているんだい?」
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