見えない壁

12/12
前へ
/14ページ
次へ
「はぁ? お前の話なんかしてねえよ。目の前の壁について話してんだよ」  僕の中での思考と、時間が停止する。  世界が回る映像に一時停止ボタンでも押したかのように。 「僕は、目の前に和壁があるんだが」 「……俺も和壁だ」  彼も状況を理解したのか、少し緊張したような様子で訪ねてくる。 「まさか、な」  以心伝心。お互いに言いたいことが疎通し、僕も頷く。 「そのようだね」  僕たちは、この空間で起こってる一番の奇跡を見落としていたらしい。  「お互いに、先入観に捕われていた。そして、最後の最後まで気づかなかった」という奇跡を。灯台もと暗しとは、この事だ。 ――最初から、僕たちの間に壁なんて無かったんだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加