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「はぁ? お前の話なんかしてねえよ。目の前の壁について話してんだよ」
僕の中での思考と、時間が停止する。
世界が回る映像に一時停止ボタンでも押したかのように。
「僕は、目の前に和壁があるんだが」
「……俺も和壁だ」
彼も状況を理解したのか、少し緊張したような様子で訪ねてくる。
「まさか、な」
以心伝心。お互いに言いたいことが疎通し、僕も頷く。
「そのようだね」
僕たちは、この空間で起こってる一番の奇跡を見落としていたらしい。
「お互いに、先入観に捕われていた。そして、最後の最後まで気づかなかった」という奇跡を。灯台もと暗しとは、この事だ。
――最初から、僕たちの間に壁なんて無かったんだ。
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