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「おたく、誰だ?」
壁の向こう側あたりから聞こえてくる意気揚々とした声。
それは、暗闇の中で頭を抱えていた僕に差し込んだ一筋の光。救いの手。僕をどん底から拾い上げてくれた。
息を深く吐く。安心し、落ち着きを取り戻した僕は、質問を返した。
「僕は気が付いたらここにいたんだ。君こそ、誰なんだ?」
数秒間の沈黙。何かを思案しているのだろうか。
「君こそ、誰なんだ」
と繰り返しかけた僕の言葉を、彼が上書きする。
「やめだやめだ。今の質問は無しだ」
「無し?」
「こんな凡庸極まりない質問をぶつけたところで、何も面白くない。愛が無い。夢が無い。意外性が無い。金が無い」
最後のは君個人の問題だろう、と心の中で苦笑する。彼の発言は続いた。
「という訳で、質問を変えるぞ。あんた、奇跡のどれくらい?」
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