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「奇跡の定義か……。考えた事も無かったよ」
素直な感想をぶつける。彼の無節操さにつられてか、自然に僕も親しい相手への口調になっていた。
少し思案したのち、僕は口を開く。
「例えばね」
「例えば?」
「有りがちな話だけどさ、もし野球の試合で負けていて、9回裏2アウト満塁で、4番バッターがサヨナラ満塁ホームランを打ったら、それは奇跡じゃないか?」
なるほどな。彼が壁の向こうで唸る。いったい、どのような顔をしているのかが全く想像がつかないのが、逆に想像力を掻き立てた。
どんな輪郭。どんな体格。どんな性格。どんな価格。全てを、自由に描けと真っ白の画用紙をつきつけられた気分だ。
「……まぁ」
彼の声が聞こえる。どんな答えか。それすらも想像してしまう。
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