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「ふぅんクレイル君にクランちゃんね。また会えるといいなぁ」
蒼髪の『クレイル=レイヴァント』と名乗った青年に拾ってもらった本を抱え、上機嫌で通りを歩いていく。
足取りは軽く、先刻のそれよりも、だ。
そして鼻歌を交えながら、目的地に到着した。
洋風料理店『シュトラーゼ』そこが彼女の目的地である。
最近人気の店で、昼の時間などは席はほぼ満席となってしまう。
が、彼女が用のあるのは、店内ではない。
店の奥にある、『埋葬機関』と呼ばれる特殊機関のほうだ。
『シュトラーゼ』は、機関の隠れ蓑となっているわけである。
店の路地裏に回り、人がいないことを確認すると、壁に手を掛ける。
すると壁の一部が機械音を立てて開く。
そこは壁でなく扉、壁を模した扉である。
扉のむこうには、下りの階段が目の前に広がり、サオリは臆することなく階段を下りていく。
薄暗い階段を、一歩一歩楽しむようにサオリは笑顔でゆっくりと。
そして、広いスペースに出るや否や、小麦色の綺麗な腕を思い切り振り上げて叫んだ。
「やっほ~、皆元気ぃ?お姉さんがきましたよ~っだ」
無駄にテンションが高いサオリ、現在の彼女を止められるものは果たして存在するのであろうか。
そんな彼女に、冷たく言う少女が一人。
人形のように美しい容姿をしている少女だ。
その少女は、この世のものとは思えぬ綺麗な金髪を後ろで束ね、その髪の先端は釣り針のように歪曲している。
彼女は『ルシエ』、『ルシエィド=トゥル=トーカー』、『埋葬機関』に所属する『対人外戦闘』を生業とする『戦鬼』の一角である。
長い前髪で表情がよく見えないが、きっとその奥には綺麗な瞳が姿を現すであろう。
そして対照的に、服装は闇色に染まっているため、髪の金色は尚引き立って見えた。
「アラ、サオリ、今日も無駄にテンション高いわね」
ルシエィドが歌うような声音で言った。
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