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材料が揃ってからは毎日、エクササイズやら化粧の練習やら自分磨きというものに取り組んだ。
しかし始めたばかりの化粧は失敗続きだったり、髪型のレパートリーも少なかったり早くも挫折寸前だ。
世の中の人はこれほど努力してたのかと過去の自分の野生っぷりに驚いた。
そして、ついに引っ越し前日を迎える。
私は今できる精一杯のお洒落をして、生まれ育った街を堪能することにした。
まずは歩き慣れた通学路。
よく行ったお店や昔遊んだ公園。
どれも、ジンと来るものはあるけれど離れがたいまではいかない。
案外冷たい人間なのかなぁとここでも少し卑屈に。
「お姉さん、どこ行くの?」
聞き慣れた声に一気に元気になりつい笑顔がこぼれる。
「賢ちゃん!!何してるの!?」
哀しいときにひょっこり現れる彼はやっぱり神様かも。
我ながら、賢ちゃんにはよく懐いてるなぁと思う。
「いや、明日居なくなるだろ?だから顔見に行こうと家に行ったら、散歩に行ったって言われてブラブラしてたらジメジメキノコの美華がここに生えてたってわけで。」
「賢ちゃん、キノコハンターになれそうだよね。」
「いや、そんな職業なりたくねーわ。」
「えぇ、松茸採って売ったらセレブだよ?」
「セレブの域が狭いわ!」
相変わらず鋭い突っ込み。
幼馴染は安心感が違いますな。
「まぁ、あれだ。お前はいいやつだからな。向こうに行っても大丈夫だ。・・・それに、あれだ。可愛くなったと思う。」
「あ、ありがとう・・・。」
急に真面目なトーンで言われて変に緊張してしまう。
しかも身近な人からの褒め言葉は照れ臭い。
「あーぁ、寂しくなるなぁ。まぁイケメンの彼氏作って紹介してくれるの楽しみにしとくかぁ。」
そうやってこの緊張の空気をぱっと変えるかのように妖笑を浮かべる。
「まぁ、賢ちゃんがびっくりして寝込んじゃうようなイケメン紹介するから楽しみにしててよ。」
そうやって私もおどけて笑うと、いつもの空気が流れた。
正直、賢ちゃんという大きすぎる心の支えがいなくなるのは不安でしかないけど、いつまでもお守りをして貰うわけにはいかない。
「さて、頑張るか。」
自分自身に言い聞かせるかのように呟いた一言。
渡部美華17歳。明日からの新生活、キラキラにしてみせます。
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