1.見ざる聞かざる忘れ去る

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「渡部ってどっか引っ越すらしいぜ。」 「渡部って・・・あぁ、あれかすべてが惜しいってやつ。」 「そうそう。まぁだからなんだって話だけどさ。」 周りの雑音の中、自分の名前が聞こえ話に耳を傾ける。 けれどまぁ、噂話で自分に都合のいい話なんて聞けたためしがない。 そりゃ、私なんて別に可愛くも明るくもないし。 「全てが惜しい。」 口の中で復唱してみる。 悪口ではないだけマシか。 少し卑屈になっている自分に嫌気がさす。 「美華ちゃん、引っ越すんだって?」 急に後ろから声をかけられビクッとする。 振り向くと見るからにモテそう、いや実際にモテているクラスの女の子が立っている。 「あっ、うん。そうなんだ・・・。」 特に気の利いた返事が思いつくわけでもなくありきたりな返事。 「寂しくなっちゃうね。」 そう言って本当に寂しそうにする彼女。 演技なのか否か。そう考えてしまう自分にうんざりする。 「わざわざありがとう、元気でね。」 当たり障りのない言葉を残しそっとその場を後にする。 これ以上あの子と喋ると、自分がどんどんいやになる。
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