第1章

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寝室へ足を踏み入れると、ベッドの上に無造作に投げ出された黒革の鞭が目に入った。 恋夜の心に、抑えがたい怯えが忍び寄る。 何度くり返されても、夜ごとの残酷な戯れに、恋夜は決して慣れることができなかった。 だが、それでも、高見沢と別れようとは思わなかった。 だって……………… 高見沢は、妖樹(あやき)に似ている。 妖樹に似た高見沢に強く執着されて欲望のままに弄ばれることは、店の客たちにほめそやされて渇望されるよりも、もっとずっと深い満足感を恋夜の心にもたらした。 「何を考えている、恋夜」 冷たい指を恋夜の顎にかけて、高見沢は吐息がふれあうほど近くから、かすかな怯えを滲ませた華やかな美貌を覗きこんだ。 「……あんたのこと」 妖艶な微笑を唇に刻んで、恋夜は上目遣いに高見沢をみつめ返した。 そんな小悪魔的な表情は、蠱惑的なこの美しい少年にひどく似合っていた。 オレンジ色の間接照明がなまめかしい美貌を妖しく薄闇に浮かびあがらせ、人を破滅の淵へと誘(いざな)う魔性の妖精のような抗いがたい魅力を、恋夜は無意識のうちにふりまいていた。
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