第2章

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妖樹の黒聖香を染み込ませた黒い薔薇の花びらのことを、高見沢には麻薬の一種だと説明してある。 こちらの世界の麻薬にも鎮痛効果のある物は結構存在するらしく、恋夜の説明を高見沢はすんなり信じたようだった。 コーヒーメーカーをセットしながら、恋夜は何気なくテレビのリモコンに手を伸ばし、スイッチを入れた。 お昼のワイドショーで、またゆうべの事件を取りあげていた。 目のまわりを真っ黒に塗りたくったレポーターが、かん高い声で事件のあらましをまくし立て、目撃者にマイクを向けている。 「……え……そうですね……刀って報道されてましたけど、ドラクエとかに出てくる剣みたいな感じでした……ええ……怖かったです……」 大学生と覚しきセミロングの女性が、少し恥ずかしそうな様子でぽつぽつと話した。 (知ってるよ、そんなこと) 恋夜は、唇に薄い微笑を刻んだ。 「逮捕された男は、黙秘を続けているということです。なお、所持していた運転免許証も偽造された物とわかり、警察はさらに厳しく男を追及する方針です」 深刻ぶって話すレポーターのバッグに、愛知県警察本部中警察署が映った。 レポーターが話し続けている間、画面はずっと、中警察署を映している。 コーヒーを薔薇柄のカップに注ぎ、ミルクをたっぷり入れて、恋夜は極上のブルーマウンテンをゆっくり味わった。
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