第2章

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雪は、やんでいた。 期待したような美しい銀世界ではなく、泥まじりの雪が汚く鋪道を濡らしていたのは少し残念だったけれど、恋夜の心は弾んでいた。 中警察署の近くまで来ると、ちょうど目当ての人物が、悄然と肩を落として歩いて来るところだった。 心の中でほくそ笑んで、恋夜はさり気なく彼に近づいていった。 碧は暗い顔でうなだれ、ため息をつきながらとぼとぼ歩いている。 時折ピクッと身をこわばらせて顔をしかめるのは、どこか痛めているのだろうか。 歩調ものろく、歩き方もロボットのようにぎこちなかった。 「……碧」 華奢な肢体で行く手を遮り、恋夜は子供っぽい仕草で相手の顔を覗きこんだ。 ハッとしたように顔をあげて、碧は鋭く目を光らせ、探るように恋夜をみつめた。 警戒心を露わにした表情だった。 無理もない。 初対面の人間にいきなり名前を呼ばれたら、誰だって不審に思うだろう。 「……誰だ?」 油断なく恋夜を射すくめ、碧は低く誰何した。 「そんなに警戒しないでよ。お仲間なんだから」 クスクス笑って、恋夜はサングラスをはずした。
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