第2章

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「怪我をしてるの、碧?」 恋夜は、気になっていたことを訊いた。 それから、ひどく妖艶な表情になって下から碧の顔を覗きこむ。 「いいものあげようか?」 「いいもの?」 苦し気にあえぎながらも、碧は目だけをあげて上目遣いに恋夜を見た。 相変わらず、不信に満ちた表情だ。 もったいをつけるようにちょっと間を置いてから、恋夜は両手をコートのポケットにつっこんで意味深な微笑を浮かべた。 「黒聖香を染み込ませた、黒い薔薇の花びら」 「黒聖香……!」 碧の瞳が、愕然と見開かれる。 碧のひとつひとつの反応を、恋夜は愉しんでいた。 「そう。毒にも薬にもなる黒聖香。紅薔薇や白薔薇の聖香には、傷を癒したり痛みを抑える作用はないよね。でも、碧の場合、純粋な紅薔薇じゃないから」 碧が一番言われたくないであろうことを、恋夜はさらりと口にした。 一瞬、ひどく傷ついた表情を碧はした。 すぐに反抗的に瞳をきらめかせて何かを言おうとしたけれど、唇がかすかにわなないただけで声にならなかった。
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