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日陰はまだかなり雪が残っていて、真新しい雪をギシギシ踏んで足跡をつけるのは愉しかった。
恋夜は、鼻歌でも歌いたい気分だった。
ふいに。
亜麻色の長い髪がさらりと視界に揺れて、行く手の角から細身の男が姿を現した。
いや、男というより、若者と呼ぶべきかも知れない。
年の頃は18、9……しかし、若さに似合わぬ不敵な光が、涼し気な切れ長の双眸にきらめいていた。
「ずいぶん愉しそうですね、恋夜」
「琴音(ことね)……!」
恋夜は、ハッと息を呑んで足をとめた。
すらりとした長身の肢体に闇色のトレンチコートを纏い、琴音は貴公子めいた美貌に優しそうな微笑を浮かべて行く手に立ちふさがった。
腰まで垂れたストレートの栗毛が、少女漫画に出てくる王子様のような雰囲気を醸し出している。
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