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「見ていたの?いやらしい!」
恋夜は唇をとがらせて、上目遣いに琴音を睨んだ。
愉しく弾んでいた心が、いっぺんにぺしゃんこになる。
「なかなか交渉が上手ですね、恋夜」
たおやかな白い美貌に優しい微笑を浮かべたまま、琴音は言った。
しかし、その優しい笑顔に騙されたら酷い目にあうことを、恋夜は経験から知っていた。
繊細で優美で中性的な美貌に似合わず、琴音はひどく意地が悪かった。
殊に、恋夜には、何かにつけて意地悪してくる。
妖樹はどうして、こんな奴を側近に選んだのだろう。
「僕がみつけたんだからね。碧もあいつも。横取りしようとしても、そうはいかないから!」
キッと琴音を睨んで、恋夜は細い指を胸の前で握りしめた。
琴音はクスクス笑って、黒革の手袋を嵌めた指で、長い髪を優雅にすきあげた。
「そんなにムキにならなくてもいいですよ。誰も横取りしたりしませんから。相変わらず発想が幼稚ですね、恋夜は」
「うるさいな。嫌味を言いにわざわざ来たの?」
「そんな暇人じゃありませんよ。妖樹様からの伝言を伝えに来たんです」
「妖樹が!?僕に!?」
パッと顔を輝かせて、恋夜は琴音に駈け寄った。
期待に胸をワクワクさせて、一心に琴音の顔を見あげる。
意地悪な琴音が、今だけは天使に見えた。
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