第2章

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「見ていたの?いやらしい!」 恋夜は唇をとがらせて、上目遣いに琴音を睨んだ。 愉しく弾んでいた心が、いっぺんにぺしゃんこになる。 「なかなか交渉が上手ですね、恋夜」 たおやかな白い美貌に優しい微笑を浮かべたまま、琴音は言った。 しかし、その優しい笑顔に騙されたら酷い目にあうことを、恋夜は経験から知っていた。 繊細で優美で中性的な美貌に似合わず、琴音はひどく意地が悪かった。 殊に、恋夜には、何かにつけて意地悪してくる。 妖樹はどうして、こんな奴を側近に選んだのだろう。 「僕がみつけたんだからね。碧もあいつも。横取りしようとしても、そうはいかないから!」 キッと琴音を睨んで、恋夜は細い指を胸の前で握りしめた。 琴音はクスクス笑って、黒革の手袋を嵌めた指で、長い髪を優雅にすきあげた。 「そんなにムキにならなくてもいいですよ。誰も横取りしたりしませんから。相変わらず発想が幼稚ですね、恋夜は」 「うるさいな。嫌味を言いにわざわざ来たの?」 「そんな暇人じゃありませんよ。妖樹様からの伝言を伝えに来たんです」 「妖樹が!?僕に!?」 パッと顔を輝かせて、恋夜は琴音に駈け寄った。 期待に胸をワクワクさせて、一心に琴音の顔を見あげる。 意地悪な琴音が、今だけは天使に見えた。
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