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「でも、もてるだろう。信じられないな、恋夜に恋人がいないなんて」
蛇のような眼差しで恋夜を絡めとったまま、牧田がねちっこい口調で言った。
「そんな……もてませんよ、僕」
いったん困ったような表情を作って、恋夜は恥じらうように目を伏せた。
それから、瞳に妖しい艶を滲ませて、艶然と微笑みながら、誘い込むように一人一人を順にみつめた。
「それに、僕にとってはここに来るお客さんの一人一人が恋人ですから」
長い睫にけぶった己れの蠱惑的な瞳が相手の心を一瞬でとらえることを、むろん恋夜は知っていた。
年相応の純情そうな表情とその直後の妖艶な眼差しのギャップが、いっそう強く人の心を惹きつけることも、承知の上での演技だった。
案の定、ある者はドギマギしたように視線を逸らし、ある者は欲望を剥き出しにした眼差しでくいいるように恋夜をみつめた。
恋夜は満足感を覚えて、胸の中でほくそ笑んだ。
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