第3章

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めぼしい情報にようやく巡りあえたのは、それから半月後だった。 「最近、うちの大学でさあ、変な噂がはやってるんだよね」 入り口に近いカウンターの隅、いつもの指定席に座った宮本が、水割りのグラスを運ぶ手をとめて、ふと思い出したように言った。 「噂?」 ブランデーグラスをカウンターに置いて、恋夜は宮本の方を見た。 絶妙なラインを描くグラスの中で、琥珀色の液体が小さく揺れる。 酒井のおごりで、恋夜はマーテルを飲んでいた。 お酒なんて、カクテル以外は苦くて飲めないけれど、マーテルだけは好きだった。 酒井にすすめられて初めてマーテルを口にした時、恋夜はほのかに甘い豊潤な味と香りに驚いた。 以来、酒井が来ると、そのたびに恋夜にマーテルをおごってくれるようになった。 ブランデーグラスの持ち方や、グラスをまわして掌で温めながら口に含むのだということも、酒井に教わった。
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