第3章

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「うん。名城公園で夜中に獣(けもの)が走ってるんだって」 「ケモノ?何だい、それ。新手の都市伝説かい?」 からかうような表情で、酒井が宮本の顔を覗きこんだ。 今宵も、小さなバーはすべての席が客で埋まっている。 「似たようなものかな。人によって言うことがマチマチだけど、共通してるのは、獣の目が青く光ってるってことと、獣が走った後には薔薇の香りがするってことかな。あと、時間が夜中の2時頃だっていうのも共通している」 敬語を知らないのか、それがフレンドリーだと思っているのか、宮本は年上のほかの常連客に対しても、いつもタメ口をきいていた。 「コロンをつけてるケモノか。なかなかお洒落じゃないか」 ひやかすように牧田が口をはさみ、客たちがどっと笑った。 しかし、恋夜は真剣な表情で、じっと視線をブランデーグラスに落としていた。 青い瞳。 薔薇の香り。 ……奴かも知れない。 確かめなければ。
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