第3章

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名城公園は、地下鉄名城線の名城公園駅から歩いて3分ほどの所にある、広大な都市公園だ。 名城公園とは、名古屋城を中心に二之丸、三之丸、北園までにあるいくつかの公園の総称だが、一般的にはお城の北にある北園を指している。 フラワープラザや野球場を有した緑豊かな美しい公園で、恋夜も何度か来たことがあった。 初めて名城公園を訪れたのは、まだこちらの世界に来て間もない頃……去年の11月だった。 「冬の桜を見に行こう」 身を切るような寒い日に、高見沢はそう言って、恋夜を名城公園に連れてきたのだった。 桜の季節は春だが、名城公園にあるおよそ2800本の桜のうちいくつかは、10月から12月にかけて咲く冬桜だった。 「冬に咲く桜なんて珍しいだろう。あれは大坂桜という品種の冬桜だ」 綿毛のような薄桃色の桜を指さして、高見沢は得意げに説明したが、恋夜はさして感銘を受けなかった。 冬に咲く花なんて、珍しくもなんともない。 それよりも、ソメイヨシノのような華やいだ桜を想像していたので、小さな薄桃色のぼんぼりが灯ったような冬桜の地味な姿に、恋夜は内心ガッカリした。 あちらの世界に、桜の木は存在しない。 桜といえば、写真で見たソメイヨシノしか知らなかった。
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