第3章

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(夜の公園って、意外と不気味だな) 芝生公園の方に向かってぶらぶら歩きながら、恋夜は宵闇に沈んだ四囲の梢を透かし見た。 時折ふいに現れる銅像やオブジェが、黒々とした木立の中で今にも動き出しそうだった。 寒さのためか、例の事件のためか、冷たく澄んだ夜の大気が静寂(しじま)の中にひっそりとわだかまっているだけで、人っ子ひとりいない。 そう言えば地下鉄もガラガラで、名城公園の周辺のみならず、栄の方も人通りがずいぶん少なかった。 事件が頻発している金城埠頭は、この辺からは結構遠い。 それでも、事件の特異性が……そして、何より、犯人がまだ捕まっていないということが、人々に夜の外出を控えさせているようだった。 恋夜は足をとめて、もう一度、周囲を見回した。 おふけ池のむこうに、ライトアップされた名古屋城が見える。 同じ城でも、あちらの世界の城は、ベルサイユ宮殿やエルミタージュ美術館のような、大理石の壮麗な造りなので、こちらの城とはずいぶん違う。 初めて名古屋城を見た時、その変わった外観と構造に、恋夜はひどく驚いたものだった。
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