第3章

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ふと、闇の中で気配が動いた。 常人には決して察知し得ない、微細な気配。 だが、厳しい訓練を積んだ凄腕の戦士は、針の先ほどの気配でも敏感に察知することができる。 実戦経験こそ少ないものの、恋夜も妖樹のもとで騎士としての手ほどきを受け、あらゆる武術に長(た)けていた。 ……とはいえ。 体が華奢なので、肉弾戦はあまり得意ではない。 恋夜が一番自信があるのは、剣だ。 しかし、今夜の目的は相手を捕獲することだ。 できれば、刃(やいば)を交えるのは避けたい。 奴が説得に応じてくれれば一番いいんだけど。 そう思いながら、恋夜はさり気なく歩を進めつつ、気配を探った。 いる。 近くに。 芝生公園に足を踏み入れ、左手にせせらぎの音(ね)を聞きながら、さらに歩みを進めた時。 疾走する影が、闇の中に見えた。 獣(けだもの)じみた、低い唸りも聞こえてくる。 宵闇を裂いて、信じられないほどの速さで疾走しているのは、しかし、紛れもなく人間だ。 (……奴だ!) 恋夜は、確信した。
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