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相手は、まだ恋夜の存在に気づいていない。
身を低くかがめ、自分の裡に暴走する激情の嵐をもて余すかのように、めちゃめちゃに走りまわっている。
あの様子では、説得どころか、まともな会話すら望めそうになかった。
恐らく、クレイジー・ブルーの血が覚醒し、兇戦士と化しているのだろう。
だが、とりあえず口説いてみようと、恋夜は足を早めて細身の人影に近づいていった。
ちょうど、まっすぐこちらへ走ってきた黒い塊が、恋夜の存在に気づいたらしく、ぴたりと立ちどまった。
急ブレーキをかけたという表現がぴったりだが、つんのめったりバランスを崩してよろめくようなことが一切なかった。
とても、人間の動きとは思えない。
すらりとした長身の肢体は、両手をだらりとさげていても、どこか戦士めいた隙のないしなやかさを感じさせた。
暗くて、顔は見えない。
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