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「結空斗(ゆらと)……だね?」
ゆっくり相手に歩み寄りながら、恋夜は、親しい友人に話しかけるような口調で声をかけた。
返事はない。
獣(けもの)のような低い唸りが、わずかに夜気を震わせただけだ。
「警戒しなくてもいい。僕、仲間だよ。結空斗と同じクレイジー・ブルーの……」
なおも言いかけた恋夜の台詞を、黒い凶暴な疾風が遮った。
結空斗が野獣のように、恋夜に襲いかかったのだ。
咄嗟に身をひねってかわしたものの、右の二の腕にかすかな痛みが走った。
グルル………………
こちらに向き直り、狼のように低く唸る結空斗の右手には、銀色に光るメスが握られていた。
(会話は通じない、か……)
恋夜は、小さくため息をついた。
(無傷で捕まえたかったけど、仕方ない)
できるだけ傷つけないよう気をつけるつもりだけど、浅傷(あさで)ぐらいは負わせてしまうかも知れない。
恋夜は、左手に意識を集中させた。
恋夜の利き手は、左手だ。
パアーッと蒼い光が、恋夜の左の掌から迸る。
蒼い花火が長く尾を引くような眩い光が夜目に走り、抜き身の剣が出現した。
華奢な恋夜にはふつりあいな、ロールプレイングゲームに出てくるような立派な剣だ。
剣の柄を握りしめて、恋夜は静かに切っ先を結空斗に向けた。
ほかに誰もいないので、障壁を張る必要はない。
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