第1章

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「フォアローゼズですか、井端さん」 井端に熱いおしぼりを渡して、恋夜は背後の棚に並んだボトルから中央に置かれた一本を取った。 ボトルのラベルに描かれた、四つの紅い薔薇を見て、恋夜はまた過去に吸い込まれそうになり、軽く頭をふった。 「うん、ダブルでね」 何も気づかぬ様子で頷いて、井端は隣の坂口に話しかけた。 「さっき、大須観音の近くで喧嘩があったらしいよ。パトカーがいっぱい来てた」 やっぱり、という表情で牧田が井端の方に身を乗り出した。 「酔っ払いの喧嘩でしょう?くだらないですね」 「いや、酔っ払いじゃなくてね、好きな女をほかの野郎に取られて、男が刀をふり回したらしい。物騒だね、まったく」 客たちのそんな会話を聞き流しながら、恋夜は足もとがすくわれるような錯覚に襲われ、早く高見沢が迎えに来てくれればいいのにと思った。
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