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「フォアローゼズですか、井端さん」
井端に熱いおしぼりを渡して、恋夜は背後の棚に並んだボトルから中央に置かれた一本を取った。
ボトルのラベルに描かれた、四つの紅い薔薇を見て、恋夜はまた過去に吸い込まれそうになり、軽く頭をふった。
「うん、ダブルでね」
何も気づかぬ様子で頷いて、井端は隣の坂口に話しかけた。
「さっき、大須観音の近くで喧嘩があったらしいよ。パトカーがいっぱい来てた」
やっぱり、という表情で牧田が井端の方に身を乗り出した。
「酔っ払いの喧嘩でしょう?くだらないですね」
「いや、酔っ払いじゃなくてね、好きな女をほかの野郎に取られて、男が刀をふり回したらしい。物騒だね、まったく」
客たちのそんな会話を聞き流しながら、恋夜は足もとがすくわれるような錯覚に襲われ、早く高見沢が迎えに来てくれればいいのにと思った。
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